シンデレラの落とし物
「……いや。なんか喜んでくれたし、てっきりオレのファンかと」

「有名人に会えたら誰だって喜ぶよ!」

「そうね……」

ごもっとも、といいながらも、やさぐれた様子が可愛くて美雪はつい笑ってしまった。
こんな顔するんだ。
甘い飴が貰えなくてふてくされた子供みたいだよ。

海外旅行はどこへいったとか、旅行の話を始めたら思いのほか話が弾んで、時折気にして使っていた敬語も打ち解けていく会話に自然となくなっていく。そして楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
秋が腕時計を見る。その視線を追った美雪はお別れの時間が近いことを察して、少し残念な気持ちになる。

「美雪ちゃん、聞かないんだね」

両手を組み合わせ、身を乗り出すようにテーブルに肘をついた秋の、心まで見透かすような真っ直ぐな視線が美雪を見た。

「なにを?」

「普通こんなシチュエーションになったら聞きそうなこと」

「……仕事のこととか?」



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