君色-それぞれの翼-

夏休み

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嫌な通知表が返ってきて、学校の夏期講習も終わった7月28日。

いよいよ夏休みに突入した。


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「で、何するー?」

美術室は冷房ガンガン、手元に氷入りの炭酸ジュース。

窓の向こうでは太陽の下で野球部がグローブ片手にキャッチボール。

夏休み1日目。

見事に日にちがピッタリ重なった野球部と美術部の夏休み活動1日目でもある。

「氷で何か作るー?」
「氷無いしっ!」

課題が無い中、あたしは苗と南と一緒に冷房の風が直撃する所でうなだれていた。暑くて何もやる気にならない。そんな感じ。

「…散歩行こっか。」

ジュースを飲み干した苗が、空っぽになったカップを振りながら言う。
南は冷房から離れたくないのか、動こうとしない。
でもずっと美術室にいるのも暇なので、あたしは苗と一緒に南を引き摺りながら外に出た。

一歩廊下に出ただけでムシムシして仕方無い。
太陽の光が思っていたより眩しい。


「あづー…」

口から出て来るのはこの言葉だけ。

汗をかきながら暫く歩いて、中学部のグラウンドの前に差し掛かった。


ユニフォームに身を包んだ野球部員が沢山いる。

この中から戸谷君を見つけるなんて、容易い。後ろ姿でもすぐ分かる。


そして何よりも



エースナンバーがよく目立っている。



その背番号を見ただけで何でか…努力が滲み出ているのか、誇らしげな気持ちになる。

太陽の眩しさでよく顔は見えないものの、戸谷君は直ぐに見つかった。


普段体育の授業でだらけてばかりの戸谷君は、此所にはいない。


代わりに、目を輝かせた戸谷君がいる。



暑さを知らないかの様に走り、ボールを握っては笑顔を零す。



『野球ってそんなに楽しいの?』なんて思うくらい。



野球が恋人、そんな感じ。



でもそんな戸谷君が好き。



戸谷君が野球を好きな気持ち以上に、戸谷君が好き。


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