《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
「ごめんなさい。急に触ろうとしたから驚いたんですね?」
肩をすくめる女。


「違う。驚いたんじゃ……」
言い終わらないうちに、腕を引かれて白い椅子に座らせられた。


「なんなんだ?」

「お茶をお出しします。珍しく来たお客様には、おもてなししないと」

「客じゃない。たまたま通りかかっただけだ」


「いいんです。暇だし。何かの縁ですかね?」

そう言って、出してきたのは聞いたことのないメーカーの缶コーヒーだった。

ーーー暇なのは、お前だけだ。縁? ざんぎりと? あったら堪らない。ある訳がない。


じっと、缶コーヒーを見ていると女がじぃっと秀馬を見つめてきた。


「なんだ?」

「初めて会った時から思ってましたけど、すっごく綺麗な顔ですね」
女が手を伸ばして、秀馬の頰に触れた。ぴとっと吸い付くみたいに女の手が止まる。


「なんなんだ? この手は? 今すぐこの手をどかせ」
触られてる頰から女の手をはがす秀馬。完全にムッとしている秀馬を見て、女は無意識に触っていたようで急にハッとした表情をみせた。


「あっ!! 私ったら! なんかすみません!ほんとにすみません! もう触りませんから」
異常に怯え慌てる態度の女を見て、秀馬はため息をついた。


「言っておくが、俺には何があっても勝手に触るな」


「あの、はい! わかりました」

「ところで……あんた、ここの店長してるのか?」

「私ですか? とんでもない! 店長とか長のつく器じゃないので。ここの店員で村山一子(ムラヤマイチコ)と言います。よろしく お願いします」
握手するつもりなのか両手を出してきた一子。


「何故、手を出してきた?」

「握手です。どちらの手がいいかわかりませんから…」


「残念だが、仕事以外で握手はしない主義だ」
決して手を出そうとはしない秀馬。

「え?」
大きな瞳をぱちくりさせる一子。


ーーーどうせ、次の言葉は、みんな同じだ。『変わってる』だ。
もう、言われ慣れている。


なのに、一子は違う言葉を発した。


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