君だけに、そっとI love you.
2枚目の写真を見ながら掬惠が記憶をたどる。
そう、高校3年生、春頃から坂口くんはクラブを時々休むようになり、どうしてか以前と少し様子が変わってきたのを私は感じた。
「来年もこんなに綺麗な桜を見ることが出来るんだろうか……」と急に寂しそうな表情で私の顔を見て言ってきたり。
また、別の日に坂口くんが蟻の群れが死んでいるマルムシを高々と抱えて運んでいるのを見つけて、
ふと私の顔を見ながら「自分が死んだらどうなるんだろう……」とポツリと言った事がある。
どうして、そんなことを言うの?
──その時、返事に困った私は、何も
言えなかった。
私は坂口くんが笑ってくれるように、楽しいことを思い付いては坂口くんを少し笑わせた。
2枚目、高校3年生、5月、北海道の修学旅行でクラーク博士像の前で撮ったクラスの集合写真──。
クラスの集合写真。
クラーク博士の像の真似を皆でしている。
足を肩幅に広げ、左手は後ろの腰辺りにまわし、右手は肩から水平に上げて真っ直ぐぴんと伸ばす、顔は右手の先を少し見るような感じで、とあの時のカメラマンの声がよみがえる。
「ねぇ、坂口くん、クラーク博士の伸ばしている右手の意味を知ってる?」
「えっ、右手は宝物や大切な物を探している……?」
「じゃあ、左手は?」
「左手は……、大切な人を守っている」
軽い気持ちでなんとなく出した私の質問に、真剣な顔をしながら考える坂口くんのなんとなくの出た答え。
「あっ、空を見て!」
「えっ、何なに?」と周翼が雲1つない青く澄み渡る空を見上げる。
「ほらっ、あの小さくてキラッと何度も点滅をして光っているの、絶対にUFOだよ!」
「吉井さん、あれは飛行機だよ」と冷静に周翼が言った。
「違う、違う。ほらっ、消えて、また出てきた!!」
「あっ、まじだ!吉井さん、凄い」
周翼が空を見ながら笑った。
カシャッというカメラのシャッター音が聞こえた時はもう遅かった。
あの時、こんな会話をしていたから2人だけ顔が真上を向いている写真に。
でも、私達にとって記念の1枚だねと掬惠が懐かしむ。
坂口くん、いい顔で笑ってるよ──。
そうだ、坂口くん、くしゃくしゃになったあのルーズリーフを取り出してはよく小さな絵に斜めの線をシュッと書いて潰していたよね。
北海道の修学旅行に行った時も、帰りの飛行機の中で私の隣で嬉しそうな顔をしながら飛行機の絵に斜めの線をシュッと書いて潰してた。
だって、やっとこれで全部の小さな絵の上に斜めの線がはいって制覇ができたから。
くしゃくしゃになって年季の入ったルーズリーフ、大切な坂口くんの宝物だもんね。