君だけに、そっとI love you.


ーー担任の先生から聞いた話ーー





坂口くんの体調が悪くなり始めたのは、高校3年生の春頃。




病院へ行くと坂口くんの年代では珍しいタイプの癌で治療が大変難しく、その頃すぐに入院をして治療ができる病院へ行くように進められていたそうだ。




坂口くんは学校に少しでも行くことと修学旅行に参加をすることを強く望み近くの病院から通院をしながらしばらく、学校に通っていた。



ところが、夏休みの終盤に体調が急変し遠方の病院へ急遽入院をすることになり、坂口くんの両親も長年ずっと住んでいた家を急に暫く離れなければいけなくなってしまったのだ。




坂口くんからのお願いで、




『皆に心配をかけたくないし、自分のことは誰にも言わないで欲しい、絶対に元気になって学校にもどってくるから』と──。



辛い治療中も、時間を見つけてはお見舞いに来ていた担任の先生が病室に入ると笑顔で坂口くんは愛想よく話をしていた。




でも、その笑顔の裏側で坂口くんの両頬には乾いた涙の後があった事を担任の先生は見つけていた。


ある朝、坂口くんは突然呼吸が荒くなりそれから意識がない状態が2日間続き、そして静かに息を引き取った。




坂口くんが亡くなったのは卒業式の3日前だった。




亡くなる少し前に坂口くんは、自分で用意をしていた小包を両親に託していたそうだ。



坂口くんの両親は小包の中身を知らない。




『もしも、俺が亡くなったら、この小包を吉井 掬惠さんに渡して欲しい──』




坂口くんが亡くなった日の夜、担任の先生は坂口くんの両親からその小包を受け取った。




坂口くんのお母さんのはからいで「卒業式前はなんなんで……、せめて卒業式が終わった後に周翼から託された物を吉井 掬惠さんにこれを渡して頂けますか?」と担任の先生にお願いをしたそう。


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