少しずつ、見えるミライ
一緒に住むにあたり、感心したことはもう一つある。

今のところは一応お試し滞在だし、彼が家にいる時間もほとんどないから、私としてはあんまり気にしていなかったのだけど、生活費はきちんと割り勘にしてほしいと、最初に彼の方から申し出があった。

聞けば、卒業と同時に親からの仕送りがなくなるのがわかっていたから、卒業数か月前には住んでいたアパートを引き払い、順也君の所にお世話になりながら、少しずつお金を貯めていたらしい。



なぜなら、もしオーディションが立て続けにあったり、仕事中に怪我をしたりして働けなくなったら、すぐに生活費が底をついてしまう。

言わば自分自身が商品だし、普通の職業じゃないから、いつどんなタイミングで出費を強いられるかわからない。

そんな不安定な状況でも、夢を実現するまでのステップで、お金が原因でつまずいたり、後悔したりしたくない。

稼げる時に稼げるだけ稼ぐのはそのためで、そう思えば、多少忙しくても、全然平気なんだとか。



さらに言うには、最近は順也君の所を出て一人暮らしを再開する準備もしていたから少し余裕もあるし、年下だから、フリーターだからを言い訳に、変なところで甘えたくない。

何より自分をちゃんと一人の男として認めてほしいから、「ヒモ」には絶対なりたくないんだそうだ。
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