even if

mars yellow

夏休みはあと一週間を残すところ。
お盆も過ぎたのに、暑い日が続いている。


いつも通り、保健室のパソコンで提出書類を作っていた。


『ななちゃん、久しぶり』


ふと、顔をあげると、そこに渋谷くんがいた。

相変わらず、着崩した制服姿で、一ヶ月前となんにも変わらずに。


『えっ!うそ!?なんで?』

思わず立ち上がる。
夏休みが終わるまで、あと一週間もあるのに。


『俺、特進クラスだから、始まるのが一週間早いの』

渋谷くんは、私の驚きようを見て、くすくすと笑う。

『そうなんだ…知らなかった…』

ストン、と椅子に腰をおろした。
ふいうちのその笑顔はずるいよ。


『内緒にしてたんだよ。びっくりさせたくて』

渋谷くんは、いたずらっぽくそう言うと、私に近づいた。

そのまま、身をかがめて、ギュッと私を抱き締める。


『会いたかった』


私の髪に顔をうずめて、小さく言う。
久しぶりの渋谷くんの匂い。

私も…会いたかった。


『めちゃめちゃ我慢したんだからな』


渋谷くんは、少しすねたようにそう言うと、体を離して、私にキスをする。


私の肩に置かれた大きな手のひら。
おでこにあたる茶色の髪の毛。

今までで、一番、長い、キス。


誰かが来るかもしれないのに、私はされるがまま、じっとしていた。



名残惜しそうに唇を離すと、

『本当はまだ足りないんだけど』

渋谷くんは、そう言って、少し照れ臭そうに笑った。


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