even if

christmas eve

年末が近付き、町はクリスマス一色になっている。

外を歩けば、マライヤキャリーの歌声が嫌でも耳に入ってくるし、テレビをつければ「世界で一番大切な人と行こう」なんてテーマパークのCMが流れる。

仕事帰り、ウィンドーに飾られた、雪の結晶やトナカイを横目で見ながら、ため息をついた。

今日何度目のため息だろう。
思い出したくないのに、昼間のことをどうしても思い出してしまう。






『碧ね、受験校のことで進路指導室に呼ばれてるから、ここで待たせてもらってもいい?』

放課後、保健室にやってきた松原さんはそう言って、ソファにすとん、と座った。

『もちろん』

そう言って、書類を引き出しにしまうとき、私の手はわずかに震えていた。

こわい…。
松原さんから、渋谷くんの話を聞くのが怖かった。

だから、

『松原さんは、どういう大学に進むの?』

こっちから、話題をふった。

『私は外大。将来CAになりたいんだ』

『CAかぁ。松原さん、背も高いし、美人だから、制服も似合いそうだね』

私がそう言うと、松原さんはそうかな、と照れ臭そうに笑いながら続ける。


『でも、CAっていろんなとこに行くから、碧とは遠距離になるかな。そうなったら嫌だな』

『…そうだね。でも、大丈夫じゃない?渋谷くんと仲良さそうだもん』

どうしてこんなことを言わなければならないのだろう。
胸の痛みをごまかしながら、私は笑う。

『えへへ…。まぁラブラブ…。こないだ…キスされちゃった』

『そっかぁ』

笑え、私。

『クリスマスにね。泊まりにこないか、って誘われてるんだ…。それって…やっぱり、そういうこと…だよね』

『…うん。ちゃんと避妊してもらってね』

どうしてこんなアドバイスなどしなければならないんだろう。


『…渋谷くんなら…ちゃんとしてくれると思うけど』

『そうだね。碧はきっとちゃんと避妊してくれる。初めてだから、ちょっと怖いけど…碧とならいいかな、って』

『…頑張って。ていうのも変か』

あはは、と声に出して笑った。
私はうまく笑えていただろうか。


嘘つくの下手だな。

自分でも、そう思う。

< 149 / 200 >

この作品をシェア

pagetop