even if

four seasons

ぶかぶかのTシャツを頭からかぶって、もう一度碧くんの腕の中に潜り込んだ。


『…引越しはいつ?』


部屋のすみに置いてある、荷造り途中のの段ボールを横目で見ながら、私は聞く。
段ボールには働き者の蟻のイラストが載ってある。


『…来週』

碧くんが、私を抱き寄せる。

『そっか。九州、だよね…』

『うん』

しばらく黙って、碧くんの心臓の音を聞いていた。
Tシャツごしの碧くんの体温。
ダウンライトだけつけた部屋は、薄暗くて静かだ。


『…俺、就職したいって言った時があっただろ?』

私の髪を撫でていた碧くんが、急に真面目な声で話し出す。

『…あったね』

『俺さ、早く社会人になりたかったんだよ。社会人になったら、堂々とななちゃんのそばにいられるのかな、って』


だから、就職したい、って言ってのか…。
私の…そばにいるために。


『本当は医者になりたいくせに、学生やるのが嫌だ、とかこどもみたいなこと言ってさ』

『その理由を聞いたら、布団かぶっちゃったのよね。あのとき、グーで思いっきり殴ってごめんね』

思い出すと、つい頬がゆるむ。

あれが、初めての喧嘩だったね。


< 192 / 200 >

この作品をシェア

pagetop