二人乗り-恋の温度-
歌音side
柔らかい春の風が優しく私の髪を揺らす。

甘い桜の蜜の薫りと、若葉の青い薫りが鼻腔をくすぐる。

私は春が好きだ。

心一杯に満たされる色んな薫り、目を癒してくれるような眩い光、虫や草花から感じられる生命力…その全てが、私は大好きだ。

「歌音ーー!」

坂道の上から、誰かが私に手を振っている。

私は笑顔で走り出す。

「おはよう!」

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今日から新学期が始まる。

久しぶりに見た学校は、ピンクいっぱいに染まっていた。

散り始めた桜の花びらが、風が吹くたびに舞い上がって、まるで雪のようだ。

「私たち同じクラスになれるかな?」

親友の山口美春が私を見ていった。

美春とは幼稚園からの付き合い。
家も近くにあるから、家族ぐるみで仲が良く、夏は両家でキャンプに行ったりもする。

「早く掲示板を見に行こう!」

「そうだね!」

美春は私の手を取って、掲示板のある方へ走った。


「よしっ、ついた!あれ歌音?どうしたの?大丈夫?」

「はぁ…み…はる…はや…い…っ!」

美春は小学校の頃からバスケをしていて、ルールもよく分からない私が見て上手いと思う。
だから、美春は運動神経が抜群。

それに比べて…私は生まれてこのかた、部活なんて勿論のこと未経験。小さい頃からお絵描きやら、人形遊びやらしかやってこなかったから、結果運動音痴の出来上がり…

体育の成績も…言わないでおこう…

「歌音は体力がなさ過ぎるのよ。もっとも運動しなさい。」

「だってぇ…」

「だってじゃないの、やるの」

美春、目が怖い…

「はい…」

あんな目をされたら、断れるわけないよぉ…


「うちらの名前…えっと…」

私がうなだれている間、美春は私たちのクラスを確認してくれていた。

「どう?あった?」

「えっとねー…あ!あったあった!」

顔を上げると、美春が笑顔で言った。

「同じクラスだよ!!」

「おぉー!!」

うちの学校は2,3年はクラス替えをしないから、美春と3年間一緒のクラスだ!

「「よろしくお願いします!」」

私たちは声を合わせて言った。
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