アマリリス
第15話

 帰宅してからも玲央の顔と声が頭に残り、夕食中なのに少しボーっとしてしまう。由美香もその様子に気がついており訝しがる。
(今日のあの表情からして、七瀬さんも大輝君と同じような印象を持ったと思う。ならば彼も運命の相手なの?)
 箸を上げたまま思い悩んでいると由美香が切り出す。
「お母さん、箸止まってる」
「え、ああ、ごめんなさい」
「大輝さんのこと考えてたんじゃないの?」
「違うわ、彼とは縁が切れてるもの」
「じゃあ、違う男の人?」
(この子鋭いわね……)
「そんなんじゃないわ。気にしないで」
「分かった……」
 素っ気無い態度に少々寂しくなるものの、想いを押し殺して箸を伸ばした。

 翌日、毎月恒例の花の市が駐車場の一角にて開催される。色とりどりの花が普段無機質な駐車場に咲き、見ているだけで心が躍る。昔から動植物の好きだった美玲にとって花の絨毯は心癒されるものの筆頭であり、花をプレゼントされるだけで天にも昇る心地になる。昼食を終えた美玲は佳代を残し駐車場へと駆けつけ、綺麗な花々をうっとりとした顔で観察する。
(本当に綺麗だわ。見てるだけで癒される。買いたいところだけど、今月はいろいろ出費キツイしな~)
 しゃがみ込み溜め息をつきながらパンジーを眺めていると、隣に男性がすっと立つ。見上げると相手の方から挨拶をする。
「こんにちは、神宮さん」
(七瀬さん!)
「こんにちは」
「ここは花の販売もしてるんですね」
 玲央は隣にしゃがみ込みながら自然に話しかけてくる。
「ええ、月に一回ですけどね」
「お花は好きなんですか?」
「花が嫌いな女性はいませんよ」
「確かに」
 苦笑しながら玲央は立ち上がり、さっと見渡し遠くにあった一つの花を持ってやってくる。
「クイズです。この花の名前はなんでしょうか?」
 ネームプレートを隠しながら玲央は問うが、花好きの美玲にとってこの問いは簡単過ぎた。
「アマリリス」
「正解、凄いですね」
「アマリリスは好きな花の一つだから当然ですよ」
「そうですか、僕もアマリリスは好きな花です。正解した神宮さんに、このアマリリスをプレゼントしますよ」
「いいですよ。そんな悪いわ」
「いえ、昨日駐車場で助けてくれたお礼ですから」
 そう言うと素早く会計を済ませ、白いビニール袋に入ったアマリリスを美玲に手渡す。有無を言わさない強引さに戸惑うも、異性からなされた花のプレゼントは心を揺さぶるには十分過ぎる行いであり、胸の奥がドキドキしていた。
 自宅のベランダに突如現われたアマリリスの鉢に由美香も驚くが、贈り物だと知ると不機嫌になり部屋に閉じこもっていた。大輝との件がまだ尾を引いているというのは分かるが、今のような関係が続くのは由美香にとっても自身にとっても良くない。ずっと避けていた大輝への連絡だが、由美香の頑なな態度を目の当たりにし、向き合う覚悟が決まっていた。

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