鳥籠の底は朱い道
朝になって、自分がいつの間にか眠ってしまったことに気が付く。だけど気がつけたのは自然的ではなく本能的に。

へぇなんだ、いつの間にか賑やかになってやがるな。
朱道は目覚めた光景を賑やかの一言で済ますが、周りを取り巻く白銀の毛並みの群れは明らかに朱道に対し殺気を放っている。
視界には木よりも白銀の狼の方が多く、恐らく寝込みの朱道を襲おうと集まってきたのだろう。
ただその前に朱道は殺気により起きてしまったが、狼の群れは一匹たりとも逃げ出そうとはしない。
確かにこの山で朱道よりも強い獣はいない。だが、群れは単を打破するための集団。これだけ集まれば狼とて勝利を確信しているのだろう。
群れの数は百以上。
なるほど、確かに狼でなく人間でも百対一ならばどれだけ圧倒的に有利だか理解する。
――だが、朱道は違う。相手が例え百、二百だろうが臆することはない。
何故なら朱道の眼には、全て自分の溜まっていた怒りを発散させるただの“餌”にしか見えていないから。
「――さっさとかかってこいよ犬! その真白な毛を真っ赤に染めてやるからよ!」
朱道が遠吠えの如き放つ声が戦いの合図。
命令されたかのように狼の群れは動きだすが、白銀の輪が縮まる様ははっきりとした恐怖映像だろう。

人間一人に対し一度に襲えるのは何匹?

左右前後の四匹のみ?
それは違う。人間ならば一度に四匹しか向かっていけないだろうが狼のような獣は違う。
自分の身長よりも何倍も跳躍し、突進する時の狼は左右前後の左だけで四匹は迎える。つまり最低でも左右前後で十六もの狼が一斉に飛びかかり、尚且つ上からも数匹飛びかかれる。
言うならば一度の狼の突進は、群れの戦力の二割くらいの強さを持つ。
はっきり言って驚異だ。一度に二十匹に狙われたら絶体絶命だろう。しかも朱道は武器になるものを持っていない。
――だが、朱道は違う。狼の突進に対して“たったの二割”としか思っていない。
たった一度、首を左右に振っただけでどこから二割の狼が襲ってくるのか理解し、そして狼が朱道の間合いに入ってくるまで、どうやってこの狼達を料理するか考えている。
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