鳥籠の底は朱い道
――気がつけば朱道は別荘にいた。
シャワーを浴びて獣臭い血を流す。いくら体をシャワーで洗い流そうとも赤い水は流れていく。
それもそうだろう。朱道の傷はまだ癒えてはいなく、まだ血を流しているのだから。
それなのにシャワーに平然と入ってる朱道が有り得ないのだ。
だが、あくまで朱道が流すのは狼の血だけ。自分の血ならいくら流れようが気にしないし、いくら視界が霞んで貧血により倒れそうになっても気にしない。
それが日常茶飯事のことだから。
まともに洗うのは頭くらい。今の体はほとんど神経丸出し状態で、石鹸が触れただけで全身を電撃が走るだろう。実際、シャワーのお湯だけで結構しみるのだから。
当然、シャワーを浴びた後のバスタオルは使い捨て。血の付いたバスタオルは洗っても赤は落ちることはないなら。
だが、その時にはすでに血の流れはほぼ止まり、傷も癒え始めている。
この治癒力は常人ではないが、自分以外に比べる者のいない朱道にとって、これが当たり前のこと。
だから今も当り前のようにお湯に濡れた体ではなく、血を流す体を拭く。
そしてそんな時に限って朱道は、些細な出来事のようにさっきまでの戦いが記憶から薄れていく。
そして……物足りないという刹那の思い。
それが朱道の本音。
あれだけ傷を負おうが、あれだけ血を浴びようが物足りなかった。
この乾いた欲求を満たしてくれる血はどこにあるのだろうか? 
そしてそんなものは存在するのだろうか? 
それは今の朱道には分からない。

軽装に着替えて外に出る。もちろん服は全身が黒一色。他の色ならば血に負けるから。
「――雨でも降ってくるか」
朱道の見上げる空。
まだ昼に満たない空だが、煙のような灰色に染まっている。確かに朱道の思うように雨が降ってきそうな天気だった。
無駄に濡れたくはない、と朱道は外には行かず、今日はこの家で一日を過ごすことにした。
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