鳥籠の底は朱い道
「ここは……?」
目覚めて見えたのはいつもと違う暗い天井。
思い出すのにそう時間は掛からなかった。
今の時間は分からないが、暗い天井を考えると夜中のようだ。
そして今日の出来事を朱道は思い出す。
起こす体。
そして見渡すとやはりいつも死戦をしている部屋で間違いはない。
そんな所で寝ているのだ、それはつまり、自分が椿に“負けた”ということ。いつ気を失ったのかすら覚えていない。
ただ、最後に椿が自分に何かを言っていたことぐらいしか思い出せない。
「――オレが負けた……」
両手を開いて閉じて、開いて閉じてと、まるで生きているのかを確かめるように繰り返す。
だがどうしょうもなく自分という存在は生きている。敗戦というものを味わったというのに。
死戦での敗者の姿は何回も目にして、そして絶対の死を与え続けてきた。そんな自分が敗者となった時、どうして自分だけ生き残っているのか、朱道は不思議と嫌悪や後悔の念はない。
むしろ、負けようが生きているなら死ぬまで戦い続ければいい。そしてその内で勝てばいい、殺さずにただ負けというものだけを置き去った椿という存在に。
だから負けということに対し、悔しさなど……。
「くそがっ!」
ない訳がない。
それは轟き怒りを露にする様でよく分かる。
殺されずに生かされた。それだけで屈辱的なのだ。それなのに思考では生きているからいいなどという寝言で片付けようとしている。
何にムカつくと言えば他でもない自分だろう。負けというたった二文字の言葉を本能では反抗し、思考では理解している。
――そういえば、誰かにも負けを認めろと言われたような気がする。それが誰なのかは思い出せない。
とりあえず体はだるい。すぐに動かせそうなのは口ぐらいか。
「はぁ、寝るか」
気持ちを静め、起こした体をまた倒し眠りについた。
< 24 / 69 >

この作品をシェア

pagetop