記憶と。
記憶と。
何も考える事が無くなると、いつもあの笑顔を思い出す。
そして、あの声を思い出す。
それは未練なのか。思い出なのか。
どちらにしても、僕は全てを思い出す事は出来ないし、忘れる事も出来ない。
そして、過去に戻れることは無い。
人は記憶を忘れることが出来る。
それは幸せなことなのか。
まったく忘れる事が出来なければ、人は自分の記憶で殺されてしまうかもしれない。
だから忘れるのかもしれない。
それでも、忘れたくない事もある。
忘れてしまえば、そこに生きた人の存在も消えてしまう。
あの人は、消したくなかった。


 高校3年の冬休み、僕は家族旅行に出かけていた。
僕にとっては恒例の家族旅行。いつものことだと思っていた。
が、何故かその日の朝だけは、すごく吐き気のような嫌悪感があった。
 途中、車で1時間くらいは走っただろうか。
横向に寝ていた僕の頬を、急に涙がこぼれた。
理由なんて解らなかった。
ただ、涙が溢れ出て、止まらなかった。
「俺、帰るわ。」
頭で考えたわけではなく、体、本能的になぜか言葉が出てきた。
車で同じ道を引き返し、僕は1人で家に帰った。

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