たった一人の甘々王子さま


優樹の大学の卒業式を終えて迎えた今日。
もうスピードで準備を進めて執り行われるのは結婚式。


年末にプロポーズを受けてからあっという間の2ヶ月半。


一番頑張ったのは二人の母親たちだろう。
特に、優樹の母・美樹が張り切っていたのは言うまでもなく.........


日本に戻ってから優樹がしたことはドレスの打ち合わせくらいなもの。
料理も友達への案内も全て、母親と秘書の川村さんが頑張っていた。



―――――――――――――――――――



昨夜のこと。
食事も入浴も済ませた夜のひととき。


「結婚式ってさ、準備も大切なんじゃないの?」


日本に戻って来て、以前住んでいた部屋でくつろいでいる二人。明日が結婚式だとは思えない余裕っぷり。
リビングの床でゴロゴロしている優樹にソファーに座ってコーヒーを飲む浩司。


浩司の足元でゴロゴロしているから優樹はスマホをいじりながら知らぬ間に浩司にちょっかいを出している。
それも、足で。
浩司の足をつついたり挟んだり。


「二年前まで男の子みたいだった娘が結婚するんだよ?お母さんが喜んで動くのは仕方がないよ。優樹も諦めな。」


優樹は浩司の言葉に素直に頷けない。


「それにさ、」


浩司が優樹の耳元に囁く。


「ドレスを脱いだ優樹の姿のほうが俺は好きだけどね」


「恥ずかしいから、本番でそんなこと言うなよ!」


「相変わらず、照れるとその言葉遣いだよね~」


「フン......知るかっ!」


ゴロゴロ、モゾモゾしながら浩司の足元から離れる。
が、足首を捕まれて阻止された。


「何処いくの?」


「え?何処もいきません」


「なら、此処においで」


足首を引っ張られて、気づけば浩司の足元に戻される上半身。両脇を捕まれたら抱き起こされて、くるりと回されたらご対面。


「ねえ、優樹」


「なに?」


ちょっと真面目な表情の浩司にドキリとしたのは内緒。


「本当に俺の誕生日でよかったの?こういうイベントって、大抵は奥さんの誕生日にするって聞くよ?」


「いいの、浩司の誕生日で。自分を見つけてくれたのは浩司なんだからさ」


「......優樹ってさらっと言うよね」


「なにが?」


「何でもありません」


浩司の左手は優樹の右頬を撫でる。そこはいつかの傷跡があった場所。
小さな刺し傷と切り傷。はた目には解らないが、見る角度を変えるとうっすら肌の色が違う。


浩司と出会ってからの傷。
親指がその場所を捉えて優樹も気づく。


「浩司のせいじゃないからね。自分のせい。それに、綺麗に治ったしね。本番は、化粧で隠れるよ。それに、」


優樹は自分のハーフパンツを捲って


「こっちの傷のほうが跡が残ってるしね。この傷を見て笑えるようになったのは浩司のお陰だよ」


まだ残っている傷跡を自分で撫でる。


「優樹......」


「だから、感謝しないとね。その為にも、浩司の誕生日はもっと大切な日にしなくちゃ」


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