ビターチョコ

交流

それから3日後。

夏休みは終わって、今日から学校だ。

久しぶりの登校になる。

そのため、時間間隔がすっかりなくなっていて、寝坊してしまった。

SNSに寝坊した旨を書き込むと、すぐにリプライが付いた。

リプライをくれたのは椎菜だ。

『理名、支度して玄関の外にいて!

麗眞と美冬、小野寺くんと一緒に迎えに行く!』

椎菜が神様に見える。

父親は仕事に行ったため、制服を着て、おにぎりだけつまむ。

その後、急いでアイラインとマスカラのみでメイクを済ませる。

通学カバンを引っ掴んで、玄関を出ると、鍵をかけて家を出た。

その瞬間、ボロい一軒家の前に通行の邪魔になるだろう、と思うリムジンが停まっていた。

「早く乗れ、遅刻するぞ」

リムジンから顔を出したのは麗眞くんだ。

「おはよー、理名!
ほら、乗りな?」

椎菜も顔を出して、運転席にいる相沢さんがドアを開けてくれた。

これはもう、乗るしかない。

「すみません、お邪魔します……」

「おはよー!

理名、今日からまた2学期、頑張ろうね!

文化祭もあるけど、目玉はやっぱり、修学旅行だよね!

噂によると、全体での始業式の後、ウチらの学年だけ残されるみたい。

そこで、行き先発表されるらしいけど。

ドイツだといいね!」

美冬にバンバン私の背中を叩きながらそう言われた。
割と痛い……

「そうそう。

拓実くんに会えるかもしれないもんね?
ドイツじゃなかったとしても、冬休みに会いに行っちゃえば?

きっと喜ぶよ!」

椎菜までそんなことを言ってくる。

ドイツに行くには、飛行機代、いくらかかるんだろう……

つまらないことを考えているうちに、学園の広くて目立つ門が見えてきた。

「皆様、到着でございます。
お気をつけて行ってらっしゃいませ」

相沢さんに見送られて、リムジンから降りた。

「おはよ!

しっかり眠れた?

目の下のクマはないみたいだし、新学期から気合い入ってるね!」

私が教室に足を踏み入れるなり、目ざとく声を掛けてくれたのは深月だ。

「おはよ、深月。

新学期から元気だね?」

「まぁね。
ミッチーも新学期早々遅刻はまずいから、って配慮をくれてね。

イチャイチャはナシで素直に寝たよ。

正しくは、ミッチーのお姉さんが人懐っこくてね。

いろいろ話を聞きたがったから、お姉さんと一緒の部屋で寝たんだけど」

え、秋山くんって、お姉さんいたんだ。

女性の生理前の不調や生理中の気遣い方も堂に入っているのは、そのためか。

「いろいろやかましかったろ、姉貴。

でも、すぐ人の懐に飛び込めるのは長所だよな。

おかげで、誰もが名前を知ってる超有名広告企業への内定貰って、割と早くに就活終えたからな。

そこが評価されたんだろ。

今は、企業に社宅があるから、そこで一人暮らしするらしいし。

そのための荷物整理とか、お袋に料理習ったりで忙しくしてるかな」

すごいなぁ。

その人懐っこさ、分けてほしい。

「姉貴ってそんなもんだよな、俺のところもそう。

俺の場合、道明のところと違って人懐っこくはないけどな」

麗眞くんが口を挟んだ。

彩さんのことかな?

そんなに悪い印象はなかったけど。

むしろ、困っているのを見かねて助けてくれたし、いいお姉さんだと思う。

椎菜が耳打ちしてきた。

「麗眞ったら、あんなこと言ってるけどお姉さんのこと、ちゃんと好きなのよ。

時々仲の良さに私も妬いちゃうし」

そうなんだ……
シスコン、ってやつ?

「皆、早く体育館向かえー!
始業式始まるぞー!」

担任が怒鳴り込んできた。

私たちも含め、ノロノロと廊下を進み、いくつも階段を降りて体育館に向かった。

深月と椎菜が、いつの間にかアイボリーのブラウスの上にグレーのベストを着ていた。

「麗眞が着ろ、ってうるさくて」

「椎菜のところも?

ミッチーもそんな感じだった。

まぁ、大方、不特定多数の男に下着のライン見られるのが嫌なんだろうけど」

なるほど、そういうことか。

まったく、溺愛しすぎでしょ。

「えー、諸事情でやむなく我が校を離れた者もいるが。

こうしてまた我が校全員の生徒の顔を見れて嬉しく思う。

各々、また部活や勉強に精を出して、大いなる学びの場にしていってほしい」

麗眞くんの父親が壇上で言葉を述べている間、息子の彼は顔を伏せていた。

その様子を椎菜が心配していたが、心配するなと言わんばかりに彼女の背中を撫でていた。

校歌斉唱の際、いつもなら代表として呼ばれる琥珀が壇上に上がってこない。

校歌だけでは飽き足らず、残りの尺に合わせた
曲を引いてくれるので、ちょっとした皆の楽しみになっている。

黒沢 友映(くろさわ ともえ)です!
代役として弾きます!」

代わりに、まだ制服姿が初々しい、1学年下の女の子が弾いていた。

麗眞くんと椎菜、深月が一瞬目を見開いた後、微笑んでいたのが印象的だった。

もしかして、知り合い?
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