ビターチョコ

「お、皆揃ったね!
行くよー!」

かなり電車を乗り継いだ先の駅にある、広いバスターミナル。

麗眞くんに椎菜。

美冬に小野寺くん。

深月に秋山くん。

琥珀に巽くん。

私と拓実。

華恋。

全員揃って、いざ出発だ。

夜行バス内では、ほぼ会話もなく、皆寝入っていた。

そっとそれぞれのカップルの男性側が、手を繋いで防備している。

見知らぬ男に、自分の大事な彼女を見定められないようにするためらしい。

拓実に起こされて、バスから降りる。

見たこともない景色だ。

「皆さん、午後14時にはここ、金沢駅に集合です。

遅れますと、電車に乗れず、ホテルへのチェックインも出来なくなります。

くれぐれも、時間は厳守でお願い致します。

では、各々楽しんでくださいませ。

困ったら、私にご連絡頂ければ、アドバイス致します」

皆、各々散っていった。

私たちは、バスに揺られてさっそく近江市場に向かった。

バス停から15分ほど歩くと、こちらにも活気が伝わってきた。

早くからやっている海鮮の店で、お腹が空いたと海鮮丼を早速頂いた。

「美味しいー!

口の中でイクラが弾けるー!」

「海鮮なんて久しぶりだぜ。

ドイツでは海鮮と縁がなかったからな」

きちんと感想を言う私たちを横目に見ながら、琥珀と巽くんは無言で海鮮丼をかきこんでいた。

「海鮮なんて久しぶり!

すっごく美味しかったー!」

それが気に入られたようだ。

「姉ちゃん!

いい食いっぷりだったなぁ!

見ていて気持ちが良かったぜ!

これ、サービスだ。

お姉ちゃんたち、見ない顔だから県外からわざわざ来たんだろ?

のどぐろの握り、この北陸でしか味わえないから、食っていきな」

初めて食べるノドグロは、何とも言い表せない不思議な味がした。

琥珀は、すっかり店主のおっちゃんに気に入られていた。

「おじちゃん、ちょっと一緒に写真撮ろうー!

卒業旅行で、来月から大学生だからね。

旅の思い出ー!

ホラ、優弥と拓実くんと、理名も早く早く!

ホラ、理名、入らないからもっと寄って!

はい、ノドグロ!」

店主の奥さんだろうか。

その人が、琥珀のスマホをそっと取って、パシャリと1枚、写真を取ってくれた。

そこは、無難にはいチーズじゃないんだな……

琥珀は、相変わらず人の懐に入るのが上手い。

琥珀のその愛嬌の良さ、少しでいいから分けてほしい。

近江市場を散策していると、拓実が、近くに和パフェがあるという情報を見つけてくれた。

「理名はこういう甘さのが好きだからね。

俺も久しぶりに和のもの食べたいし。
行ってみる?

アネさん、アネさんがペロッと平らげそうな変わったメニューもあるよ」

「このカフェだろ?

このカフェ、移転して、もう一組がきゃっきゃと楽しんでいる辺りにあるらしい。

近い方が合流もしやすいし、迷わないだろ。
行くか?」

そのカフェを目ざとく見つけて、相沢さんに場所まで聞いていたらしい巽くんが言う。

彼は、さっきスマホで琥珀が撮った写真を、早くも共有アルバムにアップしたようだ。

相沢さん曰く、これらの写真や動画を使用し、編集ソフトを用いて、卒業旅行の思い出ムービーを作成してくれるとのこと。

いたれりつくせり、とはこのことだ。

『浴衣でそぞろ歩き!
お楽しみ中』

美冬、深月、椎菜のそれぞれから写真が送られてきて、それらも共有アルバムにアップされた。

皆、思い思いの浴衣を着て、髪型も似合うようにセットされている。

「皆色っぽいねー!

似合ってる!

メンズたちの理性壊さないように注意ね!
夜が大変だよー』

琥珀がコメントを入れると、私達がアップした海鮮丼の写真にもコメントがついた。

『いいなぁ。

海鮮丼大ボリュームじゃん!

美味しそう!

また金沢に行く機会があったら、今度は絶対に近江市場行ってやるー』

深月がコメントを入れてくれていた。

何だかんだで、深月と秋山くんは完食出来そうだな、この海鮮丼……
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