白い海を辿って。

綺麗な記憶。


私と先生はとても穏やかに距離を縮めていった。

LINEをしたり、たまに電話もしたり。

先生の仕事が忙しくてなかなか会うことはできなかったけれど、お互いのことを知るには充分だった。


好きな映画や小説、おすすめの作品を教え合ってその感想を言い合ったり、「今日は何してた?」という何気ないことまでいろんな話をした。

先生と話すのは純粋に楽しくて、私とは違う先生の視点や価値観を知れることが嬉しかった。

先生もそんな風に思っていてくれてるといいなと思う一方で、やり場のない不安もある。


私が自分のことを何も話さないことを、先生が不自然に思っていたらどうしよう。


先生は自分が離婚寸前だというかなり重大な個人情報を話してくれたというのに、私はまだ自分が心療内科に通っていることを話していない。


話せない、そんなこと。



『来週の火曜日、どこか出かけない?』


という先生からのLINEが届いたのは、私が1人悶々と考えているときだった。

離婚することと心療内科に通うこと、世間的に受け入れられやすいのはどちらなのだろう、と。



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