彼と私と秘密の欠片
でも、慶太君が何も言わないのは、多分私のことが好きじゃない(というか嫌ってるに近い)からだ。
だけど、何も言わないでも、慶太君は私の作ったオムライスを食べてくれてる。
私が作ったのは関係なく、ただオムライスが好きだからってだけかもしれないけど……
でも、私はそれを慶太君の『美味しい』のサインだと思ってる。それで十分だ。
「……私、そろそろ帰ります」
お茶を一杯飲み干して、私は立ち上がった。
「あら、もう帰るの?」
郁子さんの持つ離乳食の乗ったスプーンが、今まさに食べようとしていた栄太君の口元から離れて、栄太君は「ふえぇ」と泣きそうになる。
それを「ごめんね」と言いながら慌てて口元に持っていくと、栄太君はケロッとしてもぐもぐと口を動かす。
「はい。うちももうそろそろ晩御飯になると思うんで」
「あ、そうね」
「すまなかったね。いきなり来てもらって、うちの食事作ってもらって……」
少し残念がっている風の郁子さんと、また申し訳なさそうな剛司さん。
慶太君は相変わらず完全無視だし、栄太君はとりあえず今はご飯に夢中だ。
子供達は特に自由で、家族それぞれのリアクションだ。見ていて面白い。
もしかしたら……ううん。きっと、もうこの家にくることはないんだろうなと思うと、少し物寂しい感じもする。
「本当にありがとうね。何だか助かっちゃった」
そう言いながら、郁子さんは立ち上がろうとしている。
「あ、いいんです。皆さん、そのままで。お食事中ですし」
多分、見送りにと思ったんだと思って、私は郁子さんを止めた。
「そう? ……ごめんなさいね。また今度、ゆっくり遊びに来てね。次はちゃんとおもてなしするから」
郁子さんが向けてくれた笑顔に、私は曖昧に笑ってみて応えた。
「それじゃあ、お邪魔しました。失礼します」
最後に頭を下げて、私はリビングを出た。