絶対に逃げられない部屋



彼女は僕を抱き起こした。



足を床に下ろして、右手を美和の肩にまわして点滴がぶら下がる棒を杖代わりに、よたよたと窓まで向かった。




地面を踏むたびに身体に軋むようなするどい痛みがはしった。



高速道路の壁にぶつかった時のダメージが大きいことを、僕は痛みをもって思い知った。




ただ病院の4階から見える、自然広がる景色はとても美しかった。




窓を開けると、せみの鳴き声とむせ返るような夏の熱気が部屋に入りこんできた。




他にも若草の青臭いにおいも。



病院の中庭には、入院患者たちが池の前のベンチに座って談笑し、病院の入り口には車椅子に乗った老婆を後ろから押す息子らしき中年男性。




きっとみんな、それぞれの人生を全うしながら生きているのだろう。





そんなことを考えると、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。





僕は心配をかけた美和に再び謝った。






「ねぇ、美和。本当にごめんね」




「うん」





彼女は僕の反省を柔らかな返事とともに受け止めた。







僕はゆっくり美和の肩においていた右手をおろして、彼女の腰に手をまわした。





それに応える様に、美和も僕に寄り添い体重をあずける。






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