【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
 

立花さんは、戸棚からどんどん紅茶の葉を取り出す。
有名百貨店でしか買えない、本場イギリスからの取り寄せの品とか、貴族御用達とか、美味しい紅茶の入れ方入門書には、付箋だらけだ。
ティーバックの紅茶も味の研究の為に買っている始末だ。

「えっと悩むより、本人に教わった方がいいかもしれません」

「駄目です。駄目です! 殿方を御台所に入れるなんて!」

50半ばの立花さんは、そんな今時誰も言わないような台詞で慌てていたけれど、それはこの家が女性しかいなかった時間が長かったからだと思いたい。


台所から縁側を通り、デイビーが佐和子さんと談笑する桜の木の前に行く。

緑の葉の桜の木の下なのに、私には鮮やかな桃色の桜の花びらが舞い交う様子が見えるようだ。

「デイビー」

私が呼ぶと、彼はすぐに振り向き、忠犬のように駆け寄って来る。

「どうされました? 危ないから縁側から身を乗り出さないでください」
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