イクメンな彼氏
第三章

来週は運動会という中秋の名月の夜、私は仕事を終えて保育園を出ようとしていた。

ここを出たら悠斗さんに電話しなくちゃ、とスマホをポケットに入れて鞄から保育園の鍵を取り出す。

風が強くてバルーンスカートが翻りそうになり、慌てて押さえた。 保育園にスカートを履いて行くようになったのは悠斗さんと付き合うようになってから。

ふわふわのスカートは女の子らしくて何だかテンションが上がる。もちろん仕事中はジャージなんだけどね。

今日は幸い天気がいいから空にはぽっかりと月が浮かんでおり、悠斗さんとのお月見の約束は楽しめそうだ。

夏から仕事が忙しくなってしまった悠斗さんは、週末も出張ばかりでこの頃は平日少し会えるだけ、という事が多い。

平日は泊まらないのが二人の暗黙の了解なので、食事が終われば私のマンションに送ってもらうという日々が続いていた。

ここ2週間は全く会えていなかったから、昨日の電話を思い出してついにやける。

「比奈に会いたいよ。
離れてても俺は、いつも比奈のことばかり考えてる」

低い声で囁かれると、心臓が早鐘を
打ち、切なさが胸に広がる。
あぁ、もう私は悠斗さんなしじゃ生きられないんじゃないかな、なんて大袈裟なことを真剣に思う。

早く会いたい……。

遅番の私は保育園を最後に出る。鍵を閉めていると「比奈」と呼ばれたような気がした。

悠斗さんに会いたすぎて幻聴まできこえちゃった? 思いながら呟く。

「悠斗さん?」
振り返ろうとした時、右手首を強く掴まれて後ろに引かれ、バランスを崩して誰かの胸に受け止められた。
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