イクメンな彼氏
搭乗開始のアナウンスが空港に響き渡り、周辺の人々が動き出す。立ち上がった洋介に続こうとした時、「ところで、ユウトって誰？」と洋介が呟いた。

何となく口にしてみただけ、という様子で私の方を振り向きもしなかったけれど、突然出てきた悠斗さんの名前に私は動揺を隠せなくなった。

「知らない」
声が震える。


知らないわけがない。
私の……一番……大切な人。

悠斗さんの顔が脳内に浮かんで膨らんでいく。恐怖で押さえ込まれていた感情が溢れ出すのが止められない。

やっぱり無理だよ。
悠斗さんを忘れることなんて出来ない。
悠斗さんと出逢う前に、戻ることなんて出来ない。

人形のように３歩後ろを歩いていた私が
立ち止まると、「どうした？」洋介が怪訝な顔で振り返った。

「……なして……離して！」
保育園で子どもたちに注意するような大きな声が出て、周りの数人が振り返った。

「離してよ！ この暴力男!!」
大声で叫ぶと、洋介の顔色がみるみる蒼白に変わって柱の影に引きずり込まれた。

「何だと!?」
もともと色白な顔は大理石のように冷たくで、無表情なのが余計に怒っていることを強調している。
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