恋愛温度差
「そうなのよぉ~。楽しみね」

 茂美さんがニコニコと箸を振りまわしながら、微笑んだ。

「違うってば。黒崎オーナーからの課題なんだって」

 茂美さんのデート説を打ち消すように、私が事実を述べる。

「は!? ますますわからねえ。黒崎が、旺志にお前とデートするように言ったのか? お前、黒崎にまでオトコいない歴32年を心配されてるのか?」

「うるさい!! そこ関係ないし。黒崎さんは知らないよ。私がオトコいない歴32年だってこと!!」

 知られてなるものか。

 ずっと片想いしている相手に。オトコいない歴何年とか、絶対に知られたくないし。

「はあ? じゃあ、なんで旺志とデートすんだよ」

「だから、デートじゃないってば。課題クリアのための食事会だから。黒崎さんに、今まで食事したことない異性と食事に誘って、食事してきなさいって言われたんだって」

「それでお前?」

「そう、私」

「なんで?」

「知らない」

 私は目のまえにある肉じゃがをつつくと、大きな口でパクリと食べる。

「なんで?」とまた、お兄ちゃんが不思議そうな顔で尋ねてくる。

「だから、知らないってば」

 そこまで聞いてないし。

 聞こうとも思わなかったし。

「なんで、お前なんだろうなあ」

 お兄ちゃんが、首を傾げて独り言をつぶやいた。

 どうしても納得できないらしい。
< 6 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop