恋愛温度差
「すみません。随分と待たせてしまったようで」と、長身の君野くんが申し訳なさそうにぺこりと頭を上下させた。

 黒崎さんのお店の前にあるベンチで2時間弱ほど、待ちぼうけをくらったのは事実だ。

 だからってそれが、君野くんの責任ではないのも事実だ。

 勝手に盛り上がった茂美さんの歓喜に負け、お兄ちゃんがさっさと仕事をあがらせて、黒崎さんの店に行くように仕向けたから、私が待ちぼうけをすることになっただけ。

 いつも通りに仕事を終え、店を出てきた君野くんが罰が悪そうな表情をする必要は全く無い。

「大丈夫です」と私はガタガタと全身を震わせながら、答えた。

 この寒空のなか、2時間の待ちぼうけは正直、きつかった。

 夕食を取りやめて、今すぐ温泉に入りたい……などとは言えないけど、できれば芯まであたたまるお湯にどっぷりとつかりたい。

「なんだよ、あかりちゃんを誘ったのかよ。さっさとデートの約束をしたっていうから、どんな子を街でナンパしたのかと思ったら。随分と手近なところで手を打ったな」

 黒崎さんが店のシャッターを閉めながら、声をかけてきた。

 私は立ち上がると、黒崎さんに会釈をおくる。

「他に異性の知り合いはいませんから」

「だから課題にしたんだろうが!」

 黒崎さんが苦笑した。

 異性の知り合い……として、私が君野くんの中にカウントされていたのか。

 知り合い、というか。ただのライバル店の売り子なんだけど。

 ただ黒崎さんとお兄ちゃんが同級生ってだけの繋がりで、お店同士で交流があるだけなのに。
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