狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ 各国からの返事Ⅰ
―――穏やかな風が頬をなで、浅い眠りから覚めた千年王は長い睫毛をゆっくり開く。そしてそこにはいつもと変わらぬ美しい精霊国の景色が広がっているが、そんな風景さえ彼の心を動かすことは出来ない。
『……』
彼がしばらく無言のまま遠くを見つめていると、様子を伺うような視線が向けられていることに気が付いた。
『…王』
声のしたほうへ視線を向け、光の精霊である彼女が悠久の王への返事を待っているのだと思いだす。
『…神殿に戻る…』
『…御意』
王の言葉に従い、すでに姿が見えぬ彼を追って光の精霊は急いで彼の向かった神殿へと移動した。
日の光が燦々と降り注ぐ壮大な神殿に入ると、滅多に座らぬ深掛けのソファに彼は腰をかけている。そして流れるような動作で短い言葉を記すと、どこからか持ってきた封筒へしまう。
『…悠久の王へ…』
『…ただちに』
無駄のない操作で彼が光の精霊へ書簡を渡すと彼女は即座に神殿をあとにした。
そしてひとりになった彼はキュリオからの書簡の内容を思い出しボソリと呟く。
『…人の子がこの国の者であるわけがなかろう…』
ふぅとため息をつき、長い足を組むとソファの背もたれへと体を預ける。すると背後から水の精霊が果実酒なるものを入れた美しい杯を彼へと差し出した。
『……』
言葉なくそれを受け取ると彼は数ヶ月ぶりの飲料に喉を潤わせるが、何を口にしても彼には何の感動も感情も沸かない。こうして千年以上、生きる意味も日々の楽しみも感じず王としての時間をただ過ごしている。
『…久しぶりに悠久の王へ会いに行かれてはいかがですか?』
気持ちの優しい水の精霊が彼へそう言葉を発する。彼女はたびたび精霊王の世話をするためにこの神殿に足を運ぶが、いつも浮かない顔をしているこの偉大な王を気にかけていた。
『…会う理由がない…』
静かに言葉を残すと精霊王は音もなくその場をあとにした。
『…理由など…』
水の精霊は悲しげに視線を下げ、主(あるじ)の飲みほした杯を片付けはじめる。
唯一交流のある悠久の王とすらこの千年王は数十年の間顔を合せていなかった。そして彼が心の内を話すことはなく、長年抱えているその愁いを晴らす場所さえこの国にはない。
『……』
彼がしばらく無言のまま遠くを見つめていると、様子を伺うような視線が向けられていることに気が付いた。
『…王』
声のしたほうへ視線を向け、光の精霊である彼女が悠久の王への返事を待っているのだと思いだす。
『…神殿に戻る…』
『…御意』
王の言葉に従い、すでに姿が見えぬ彼を追って光の精霊は急いで彼の向かった神殿へと移動した。
日の光が燦々と降り注ぐ壮大な神殿に入ると、滅多に座らぬ深掛けのソファに彼は腰をかけている。そして流れるような動作で短い言葉を記すと、どこからか持ってきた封筒へしまう。
『…悠久の王へ…』
『…ただちに』
無駄のない操作で彼が光の精霊へ書簡を渡すと彼女は即座に神殿をあとにした。
そしてひとりになった彼はキュリオからの書簡の内容を思い出しボソリと呟く。
『…人の子がこの国の者であるわけがなかろう…』
ふぅとため息をつき、長い足を組むとソファの背もたれへと体を預ける。すると背後から水の精霊が果実酒なるものを入れた美しい杯を彼へと差し出した。
『……』
言葉なくそれを受け取ると彼は数ヶ月ぶりの飲料に喉を潤わせるが、何を口にしても彼には何の感動も感情も沸かない。こうして千年以上、生きる意味も日々の楽しみも感じず王としての時間をただ過ごしている。
『…久しぶりに悠久の王へ会いに行かれてはいかがですか?』
気持ちの優しい水の精霊が彼へそう言葉を発する。彼女はたびたび精霊王の世話をするためにこの神殿に足を運ぶが、いつも浮かない顔をしているこの偉大な王を気にかけていた。
『…会う理由がない…』
静かに言葉を残すと精霊王は音もなくその場をあとにした。
『…理由など…』
水の精霊は悲しげに視線を下げ、主(あるじ)の飲みほした杯を片付けはじめる。
唯一交流のある悠久の王とすらこの千年王は数十年の間顔を合せていなかった。そして彼が心の内を話すことはなく、長年抱えているその愁いを晴らす場所さえこの国にはない。