狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

ⅩⅣ―ⅶ ヴァンパイアの王の返事Ⅱ


室内を見渡すと一角に置かれた真っ白な机の上に鞘に納められた小さなナイフが置いてある。それに近づいた彼はスッと目を細め、血の香りがそこから発せられるものだと気が付いた。


「ここはキュリオの執務室ってやつだな」


設置されている家具や調度品、敷き詰められた絨毯のどれひとつをとっても洗練された美しさと品に溢れ・・・特別な人物が利用する部屋なのは一目瞭然だった。

紅の瞳の彼は机に広げられた紙と羽ペンを拝借すると、"該当者なし"とだけ走り書きを残し…軽く指を鳴らすとその指先に現れた一枚の漆黒の羽。


「…キュリオ。あんたの大事なやつをヴァンパイアにしてやるのも一興だと思わないか?」


悠久の王の大事な人間がもしヴァンパイアだったら…彼は一体どうでるだろう。嫌気がさして殺してしまうか?それとも国外追放にするだろうか…


ふっと鼻で笑う紅の瞳の王の視線の先には、先程キュリオが愛おしそうに抱いていた赤ん坊がいる。まだ言葉も話せず誕生して間もないと思われるその少女を纏う空気はどこまでも優しく、時折風にのって聞こえてくる彼女の声は鈴の音のように可愛らしかった。


「…アオイと言ったな。せいぜい俺を楽しませてくれ」


そう言うと彼は漆黒の翼を翻しキュリオたちの死角から空へと舞いあがる。


すると、女官の腕の中にいるアオイと呼ばれる少女はふと青空を見上げ目をぱちくりさせる。そしてじっと見つめるその先には…紅の瞳に黒い翼をもつ妖艶な彼の姿があった。


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