狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅦ


「アオイ、ローストビーフっていうんだから牛肉っしょ普通!」


「あ、そっか…そこまで考えてなかった」


ニコリと微笑むアオイにミキは"まったくこの子は…"と苦笑いしている。


「で?アンタの大好きなお父様は何が好きなの?まずは一番お世話になってる人にごちそうしてやんなきゃ!」



―――キーンコーンカーンコーン…



タイミングよく、一時限目終了を知らせる鐘が鳴り…


「あ、ごめん!あたしちょっとお手洗いにいってくる!」


何やら我慢していたのか、エプロンを脱ぎ捨てバタバタと調理室を飛び出したミキ。そして、取り残されたアオイは…


「…お父様の好きなもの?」


(そういえば…お父様に好き嫌いってあるのかしら…)


ふと、思い返してみるが…毎晩食卓に並ぶ料理長・ジルの自慢の品々を顔色一つ変えず口に運ぶキュリオ。彼がそのクールな表情に笑みを浮かべるのは、大抵アオイと会話している中でしかその時は訪れないのだ。


やはり思いつかず、アランを横目で見てしまったアオイ。すると彼女の視線に気づいたアラン。


「おや?君のお父様が好きなものを…アオイさんは知らないのかい?」


「ごっ…ごめんなさい…」


(お父様の事、私が一番わかってるって勝手に思い込んでいたけれど…アレスやカイ、ガーラントにジル…皆のほうがきっとお父様を深く理解している…)


(私は今までお父様の何を見てきたんだろう…)


「おいアラン…っ!そんな言い方しなくてもいいだろ!!」


急に気落ちしてしまったアオイの頭をシュウが優しく撫でた。


「アオイ、気にすんな。お前と親父の絆がそれだけで図れるわけないんだからよ」


「…ありがとう…シュウ」


この少年は気づかない。目の前にいる心優しい少女と、皮肉ばかりをぶつけ…何かと自分を邪見にしているアランが親子関係にあることを…。


目の前で繰り広げられる二人のやり取りを腸(はらわた)が煮え繰り返るような思いで睨んでいるアラン。


(私のアオイに…このヴァンパイアごときがっ!!)


ギュッと血が滲んでしまいそうな程強く握りしめられた彼の拳。


「…シュウ君。君は随分アオイさんに執着しているようですが…あまり彼女の優しさを利用しないでください」


「…そんなのわかっ…」


アランの冷やかな物言いに苛立ちを覚えたシュウが彼を振り返ると…



「アオイの"優しさ"を<愛情>と錯覚する輩が最近多いものでね…私もいい加減我慢の限界なんだ」



そしてシュウは知らない。この冷たい笑みを浮かべた男が…彼女を誰よりも愛する悠久の王・キュリオだということを―――。




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