狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その9

光弾の打ち上げを依頼されたアレスが、学園の教員に指示を受けることはなんら不思議はない。つまり彼がアランのもとへ出向き、挨拶をする光景に違和感はないのだ。


しかし…もう一人の"兄"の声が響く。


「おーいアレス!キュリオ様と姫様は見つかったか?気配は間違いなくこっちからするんだけどなぁ…」


「…え?キュリオ様がいらっしゃってるの!?お姫様も!?」


「……」


再びざわついた教室。
このままでは教室に飛び込んできたカイが思わず二人の素性を明かしてしまうことが目に見えている。


「…キュリオ様、アオイ姫様…少々お待ちください」


眉間に深い皺を刻んだアレスが早足で退出する。

そして数秒後…廊下からは…


『……っ…!』


何を言っているかわからないが、声の調子からアレスがカイを怒鳴りつけているのが伝わってきた。


『ぅわっ!やっちまったっっ!!キュリオ様に叱られる!!』


『声が大きいっ!!』


『あー!ごめんって!!』


アレスの声までもが大きくなり、再び怒られたカイの声はさらに大きい。


「なぜカイがいる…大方、祭り気分でついて来たというところか…」


アランはこめかみを押さえ、わずらわしくなったのか伊達眼鏡を外しにかかった。


最近のキュリオは嫌な事をもろに顔へと出してしまうため、少しでも隠そうとした結果がこれだ。


(お城に置いてあった眼鏡をお持ちになってまで…)


彼の眼鏡は本来違う目的で使用されていた。


キュリオをとりまく家臣や女官、侍女たちに気を使わせないため、仕事ではないという意を伝えるひとつの手段だったのだ。

< 639 / 871 >

この作品をシェア

pagetop