狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その45

涙声で懇願するカイは己を責めているに違いない。中庭に二人がいることを知っていたキュリオの言動から、彼らもまた王の言いつけに従ったのだ。

しかし、不運にも彼女の護衛であるカイが負傷し…心優しいアオイが助けを呼びにその場から離れた。

急ぐあまり…窓から飛び降りたことが仇(あだ)となってしまったアレス。恐らく階段を下りて行けばアオイとすれ違ったに違いない。


ひとつひとつの歯車から生じた小さなズレが、やがて大きな隔たりとなって目の前に立ちはだかっているかのように思える。


「…チッ…」


うまく事が運ばないのは誰が悪いわけでもない。
それぞれに意志があり、互いを想いあった結果がこれなのだ。

わかっていながらも苛立ちを隠せない弱い自分に嫌気がさす。


…そしてカイの言っていた話しに気になる部分があった。


"恐らく…キュリオ様かお前を探しに行こうと…けど、すぐ子供が現れて…"


(…子供…?)


心当たりがないと思っていたアレスだが…



"お母さまーっ!!"



センスイという男と対峙した時、偶然に現れた少年の姿を思い出す。


(まさか…屋上に来たあの子と同一人物か…?)


胸のザワつきを抑えられないアレス。
彼が父親と呼んでいた現・王と瓜二つな青年は今、キュリオと共に戦っている。

そして困り果てたアオイを見た少年が己の父親を頼ることは大いに考えられた。


(アオイ様たちは間違いなく屋上に向かっている。そして…)


(…戦いに集中したキュリオ様たちがアオイ様の気配に気づかなかったら…)


そう考えただけでゾクリと背が震え、アレスの足を一層速めたのだった―――。


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