薫子様、一大事でございます!

「射止めたなんて恥ずかしいじゃないか。でも……そうだねぇ」


芙美さんは私から写真立てをそっと取り上げると、愛しそうに旦那様の顔の部分を撫でた。


「真面目な人だったよ。その上、正義感も強くてね」

「男らしい方だったんですね」


芙美さんは頷きながら微笑んだ。


「若い頃は私もおとなしい女でね、」


それはちょっと意外かもしれない。

クスッと笑った私の肩を芙美さんがトントンと軽く叩いた。


「あるとき、電車で痴漢に遭ったんだよ」

「痴漢に!?」

「今の姿から想像しないでおくれよ? 何度も言うけど、若い頃はそこそこだったんだからね?」


ニンマリと笑う芙美さんに、私は黙って頷いた。

< 91 / 531 >

この作品をシェア

pagetop