インセカンズ
「アズ。急なんだけど、今週末の予定ってどうなってる?」

社内のリフレッシュルームにある自販機の前に立ち、何を飲もうかと財布片手ににらめっこしている緋衣を見つけた安信が声を掛けてくる。

「急ぎの案件もないから書類整理に回そうと思ってましたけど。どうかしたんですか?」

「接待兼ねてる出張に斉藤連れていくはずがインフルでダウンしてるから、アズ連れていけねーかなと思って」

「斉藤君の代わりなら、」

二か月程前に他の部署から移動してきた斉藤の事は安信が面倒を見ていたが、彼の代わりという事であれば、アシスタントを同行させるのが通常だ。

続く言葉を察した安信は、緋衣を遮るように先を続ける。

「小山さんは別件抱えてるし、部長の許可は取ってある。野郎に接待されても楽しくないだろって事に気付いたんだよ」

「それって、セクハラですよ」

「そうやって、女はすぐにセクハラって言うけどさ。使える武器は何だって使えばいいんだよ。アズは、黙ってれば可愛いんだからさ、向こうさんも気をよくするかもだろ。俺なんかは、ちょこんと座って、にこにこ笑っているだけで旨い飯食えるなんて最高じゃね?って思うんだけど」

「言いたい事は分かるけど、その発言は女性軽視だと思われても仕方ないですね」

「でたよ、優等生。可愛いってとこは否定しないのかよ。じゃあ、言い方変えるわ。アズと一緒に小旅行に行きたいから付いてきてほしい」

まるで愛の告白でもするかのような真剣な眼差しの安信。緋衣はそんな彼を数瞬見つめ返した後、首を縦に振る。

「いいですよ。今回はお互いの思惑が一致したって事で」

「……何か、たくらんでるな」

OKをもらえたというのに安信が訝しがるのは、緋衣が考えごとをしているかのように顎の下に手を添えているからだ。
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