こんぺいとう

1941年

文子が夕飯の仕度を終えた頃、玄関のドアを叩く音が聞こえる。
何かと思い顔を出すと、孝太が黙って立っていた。
孝太の顔を見て全てを悟った文子は、その場で立ち尽くした。
「どうした?」
奥から雄治が出てくる。ふと孝太を見ると、その手にはしっかりと赤紙が握られていた。ついにこの時が来てしまった。
「御国のために命をかけて戦って参ります。」
静かに頭を下げた孝太の肩を雄治が抱き寄せる。
「死ぬな。絶対に死ぬな。」
文子は涙が止まらない。
孝太も何も言えない。

三日後、孝太は多くの人に見送られ戦地へと向かった。
「戦地に向かう事が、なんで万歳なんだ…」やりきれない思いで呟いた雄治だったが、この時にはもう覚悟をしていたのかもしれない。
自分にもやがて赤紙が届く事を…
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