我妻はかごの中の鳥
◇◇◇


きい、とごく普通のアパートの扉が開く。

俺が押したチャイムで、彼女が出てきたのだ。

ちゃんと扉の外に誰がいるか確認する辺りは、一般人より警戒心が強めだ。


「ただいま」


会いたかった、は押し殺して。

目の前の彼女を目一杯意識に焼き付けとく。


「……」


何もしゃべらないけど、少しだけ睫毛が伏せているあたり、寂しかったのがわかる。

けれど彼女はそれを口にしない。

無言で彼女は廊下の奥へ進んでしまう。



ふわふわで透き通った、ムーンストーンを溶かしたような白髪。

日焼けを知らない白すぎるミルクみたいな肌。


夜を切り取ったように輝く、紺と青の中間色の瞳。


まるで、幻みたいに美しい。

この世で一番の女性とされ、戦争を引き起こすほどの美女のヘレネも真っ青な美貌をもつ彼女。


白龍瑠璃という名をもつ、たぶん世界一の女。


それが俺――日向歌月の妻である。

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