無垢な瞳
父の怒りは治まるどころか、ますます増幅し、そしてこう言い放った。

「おまえとは金輪際親でも娘でもない。もう二度とこの家に帰ってくるな」

「ちょっと待って、お父さん」


母は動転しながらも父の怒りを鎮めようと必死にすがった。

父は乱暴に障子戸を閉め、部屋を出て行った。



「冴子ちゃん、大丈夫よ。今日はいったん帰って。お父さんが落ち着いたら、私からもう
一度話をするわ。そしたら、また来てちょうだい」

母は冴子の髪を撫でながら、涙をこぼした。

「いったい、どうしてこんなことに‥‥」

「お母さん、ごめんなさい」

「体を大切にするのよ。また来週にでもいらっしゃい」




お母さん、ごめんなさい。

来週は来れないわ。

ううん、もう二度とこの家には帰れないの。

お父さん、ごめんなさい。

お父さんの言うとおり、私はもうあなたの娘ではありません。

どうか忘れてください。




冴子は、家の敷居をまたぐと、一礼して島野の待つ東京へと戻った
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