無垢な瞳
「申し訳ありません」

父は玄関で土下座をした。

祖父は黙っていた。

父は土間に頭をこすり付けて、許しを乞う。

やがて祖父は重い口を開いた。

「島野君、君を許すことは私にはできない。しかし許すも何も、私の娘が自分で決めて自分でやったことだ。君だけを責めることもできない」

父は震えていた。

「冴子はいつもそうだった」

祖父の声がうわずった。

「あの子は大事なことはいつも勝手に自分で決める。大学に行くのもそうだった。勝手に受験して事後報告で東京の大学に行きますって言ってのけた。私たちが認めざるをえない状況を作ってからの報告だからね。島野さん、あなたとのこともそう。孫がいる前であまり言いたくはないが、おなかに赤ん坊ができてしまってから報告した。すべてはあの子の意のままに進めるために仕組んだこととしか思えない。それなのに、冴子は、冴子なりにすじを通そうと報告だけは必ずやってきた。まあその結果、私から絶縁してしまったからそれ以上のことは責められないんだが‥‥」

雪が降っていた。

柔らかな白い雪が地面を隠してしまう。

全てを無にしてしまうようだ。

まるで冴子の人生そのものを無にしてしまうかのように。
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