無垢な瞳

「アキ、父さんから電話があったわよ」

アキの母、幸はバッグをソファーに放り投げながら言った。

「なんて?」

幸は首を左右に振りながら肩を押さえている。

「アー、疲れた。あんた、クリスマスに父さんと会う約束してたんでしょ」

そうだった。

ケンのこともあってすっかり頭から抜け落ちていた。

幸はストッキングを脱ぎ捨て、青竹を踏みながら続ける。

「十二月二十四日の三時に、池袋の東武の本屋さんで待ち合わせだって。あそこの本屋さんの英語コーナーにテーブルと椅子が置いてあるとこがあるでしょ。そこだから忘れないでよ」

幸はそのままソファーにごろんと横になった。

「母さん、その日はどうするの?」

いつもは早口の幸だが、すぐには答えなかった。

「母さん?」

「やだあ、心配しないでよ。娘にクリスマスのことを心配される母親なんてかっこ悪すぎ!私こそデートの約束があるからあんたの予定が決まっててほっとしているんだからね!」

幸は新聞を読んだままそう言った。

幸はうそをつくとき絶対に相手の目を見ない。

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