無垢な瞳
「これが私の知っている全てです」

アキは袴田を見つめた。

袴田は視線を落として心もとなげだったが、やがて、落ち着きを取り戻したようだった。

「そんなことがあったんですか」

袴田は自分の湯飲みを口元に持っていき飲み干した。

「お恥ずかしい話ですが、私の娘、冴子が不倫の末身ごもったことを告白して以来、縁を切ったつもりでおりました。もともと自分には娘などいなかった。そう思おうと努力してきました」

袴田は両手で顔を覆った。

「しかし、忘れることなどできなかった。娘の訃報を聞き、がっくりとした反面、孫の存在に心が救われたのは事実です。その孫を娘のかわりに今度こそ手元に置きたいと、勝手なことは承知ですが、願ってしまいました。しかし、ケンの本当の気持ちを知りたい。私はケンの気持ちを尊重してやりたい、これも本当の気持ちです」
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