無垢な瞳
ヒグラシが鳴いている。

過ぎ行く夏を惜しむように。



縁側の方から涼やかな風が吹き込んできた。


「元気でやってるの?ケンくんは」

コウの母は最近涙もろくなった。

ちょっとケンの話が出るだけでも目を潤ませる。

「元気みたいよ」



アキは年に数回ケンと手紙のやり取りをしていた。

お互い携帯を持ってはいたが、そのツールは使わない。

ケンと離れてから、アキにはたくさんの友達ができた。

彼氏と呼べるボーイフレンドもできた。

しかしそういう親しい人にもケンのことは話さない。

ケンのことを話すのは、コウの母と幸の二人だけだ。



「ねえ、おばさん。覚えてる?」

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