無垢な瞳
保健室を覗いたが誰もいない。

僕は迷うことなく音楽室へと向かった。




「ピアノを弾きたい」




音楽室にも誰もいなかった。

僕は喜び勇んでピアノの前に座ったが、すぐにがっかりした。

ピアノには鍵がかかっていた。




子供の頃は一生懸命ピアノの練習をした。

両親の喜ぶ顔を見るのが何より嬉しかったし、ピアノを弾いていると何かいいことが起こるような気がしていた。

家を空けがちの父が、ピアノを弾いていると突然戻ってきたり、万事事態が好転するように思えた。

だからピアノを弾き続けた。



そして、また今、僕は祈る。



僕に突きつけられる現実が夢であってほしい。



僕はピアノにもたれかかって目を閉じた。


僕は夢想する。

僕がまだ幼くて、父と母の間で手をつなぎはしゃいでいたころのことを。

ただ父と母の笑顔だけがあれば、幸福を実感できた頃のことを。
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