ぼくたちはあいをしらない
 茂たちは、八百屋に向かった。
 そこには小さな声で客寄せしている美声の少年がいた。

「いらっしゃい……安いよ……安いよ……」

 小さな声なのにもかかわらず少年の周りには中年の女性が少年に声をかけている。

「一君、そんな小さな声じゃ誰も買ってくれないわよ?
 若いんだからもっと大きな声で自信を持っていわないと……」

 中年の女性にそう言われているのは、斎藤 一。
 柾の幼馴染みで茂の友でもある。

「あ、はい。
 よっておいで……駆けておいで……
 今、この大根が旬だよ……」

「もう、そんなんじゃ誰も来ないわよ!
 仕方がないわね!私がこのダイコンを買ってあげる!
 だから、大きな声で客寄せするんだよ?」

 中年の女性はそう言ってダイコンを一から購入すると「頑張りなさいよね!」と言って去っていった。

「斎藤くん、相変わらず商売上手だね……」

 そう言って静香たちが、一に近づいた。

「あ、源さんいらっしゃい」

 一が、そう言って小さく笑う。

「その笑顔がきっとマダムキラーなんだろうね」

 静香も小さく笑った。

「今日は何を買ってくれるの?
 特別に安くするよ」

「今日のオススメは?」

「うーん。
 強いて言うなら芽キャベツかな……
 シチューに入れると美味しいよ」

「でも、唐揚げ用に手羽元買ってしまったの……」

 静香がそう言うと一は、生姜をカゴから取り出す。

「じゃ、『冬野菜と鶏肉の生姜スープ』なんてのはどうかな?」

「ヘルシーで、いいかも……」

 静香がそう言うと茂が、言葉を放つ。

「え?唐揚げは?」

「唐揚げは、また今度……」

「えー」

 茂がブーイングを出す。

「ってか、冬野菜と鶏肉のスープってどんなんだ?」

 柾が、一に尋ねた。。

「すりたての生姜と鶏ガラを出汁に芽キャベツとカボチャ、カリフラワー、手羽元を軽く塩ゆでする感じかなぁー
 あとお好みで、ニンニクをいれても美味しいよー」

「って、芽キャベツ以外のも買わせようとしてないか?」

 柾が、そう言うと一はニッコリと笑う。

「こっちも商売だからね……
 それなりの営業努力はするよ?」

「なんかそれ、美味しそう……」

 静香が、頭のなかで調理法を考える。

「美味しいよ。
 ウチの野菜で作るとさらに美味しよ。
 さぁ、どうする?
 芽キャベツ200グラム600円、カボチャが一玉800円!カリフラワーは一株200円!無臭ニンニク2個で400円!
 合わせて2000円!さぁ、どうする……?」

「買った!」

 静香は、即答した。
 静香の目がキラキラと輝かせながらお金を一に渡した。

「毎度あり」

 一も目を輝かせながら野菜を袋の中にいれて茂に渡した。
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