水平線の彼方に( 上 )
その頃は、何故かやたらと野良犬が多かった。
あちこちの軒下に子犬を産みつけ、その子犬がいろんな場所で捨てられているのをよく見かけた。
この時も同じ。やっぱり通学路の途中で鳴いている子犬がいて…。

「どうする?」

同じ登校班の子が聞いてきた。

「どうするったって、飼えないよ…ウチじゃあ…」

皆、飼える所は犬を飼っていた。どうすると言われても、どうしようもない現実が、そこにはあった。

「交番に届けよう!」

そう言い出したのは平井君だった。

「交番⁉︎ 落し物じゃないんだよ⁉︎ 」

皆は呆れた。でも、平井君は大真面目だった。

「道端に置いてある時点で落し物と同じだよ!連れて行こう!」

反対を押し切って、交番に連れて行った。
連れて来られた交番のお巡りさんも、困ったような顔をしていた。

「落し物です!」

子供の言う事に、真剣に悩んでくれた。今思うと、人のいいお巡りさんだった。

「…ありがとう。家で飼うよ…」

仕方なさそうに言ってくれた。でも、とても嬉しかった。

「やったぁ!」

喜ぶ私達に、お巡りさんはきちんと説明した。

「次からは連れて来ないでね。警察では保護しきれないから」

優しいお巡りさん。
私達は、そのお巡りさんの事が好きになって、時々、会いに行った。
犬は交番で飼われ、いつも番犬をしていた。
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