水平線の彼方に( 上 )
中学の頃、フラワーアレンジメントに興味があった。
生きていた祖母が花道を習っていて、時々、生けるのを見ていたからだ。

(……近頃は何の興味もないけど…)

厚と別れて以来、綺麗な花を見ても、感動すらしない日々を送っていた。そのせいで、すっかり気持ちも薄らいでいた…。

バイトを終え、ノハラに教えられた花屋へ行く。
小さな駅前の花屋には、ビッシリと花が並べられ、道行く人々の目を楽しませていた。
花に吸い寄せられて中に入っていった人達は皆、嬉しそうに花束を抱えて出て来る。
なるほど、忙しいと言うのはホントの事のようだ。

(こんな忙しそうなお店で、私みたいな人間が役に立つのかな…)

上がり症で人見知りもある自分が、この店で一体、何の仕事ができるだろう。
花の世話ならともかく、接客なんてとてもじゃないけど、できそうにない…。

(やっぱり無理だ…帰ろう…)

ノハラには断っておこう。そう思っていたのに、次に会うと話は進んでいた。

「佐野さん、花穂に会ってみたいと言ってたぞ」
「えっ⁉︎ 」

ギョッとした。
働くとも言っていないのに、どうやら私のことを喋ったらしい。

「ちょっと待って!私、働くって決めてないじゃない…!」

(むしろ、今日断ろうと思っていたのに…)

「お前…まだそんな呑気でいたのかよ…!佐野さんには、花穂の性格について話してある。その上で会ってみたいって言ってくれたんだから、今日行ってみろ。何ならオレも一緒に行ってやるから」

私の性格を百も承知のノハラは、そう言って時間を指定した。
店を出て行った後、彼に向かってブツブツ文句を言っていると、あのバイト仲間の子がクスクス笑った。

「岩月さんって、あの人に押されっぱなしですね」

再会のあの雨の日からこっち、確かにノハラにはビックリさせられる事ばかりだ。

「ホントに…いつもあの調子なのよ…」

今に限らず、中学の頃からそうだった。どこにいても、私の顔を見かけると、宿題見せろと言って来るような奴だった。
この最近、いろんな意味でお世話にはなっているけど、今回ばかりは憂鬱だ…。

(困ったな…)

重い気持ちのまま、店の前まで来た。
ノハラの指定した時間にはまだ早くて、私は少し離れた所から、店の様子を眺めることにした。
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