水平線の彼方に( 上 )
「ドライブしようぜ。山の展望台まで」
「ええーっ⁉︎ 」

急な誘い。思わず不満な声が出た。

「気分転換に行こうぜ!いいだろ⁈ 」
「いいけど…」

自分の車を運転するのは久しぶり。普段はバイク通勤だから。


「結構、運転上手いじゃん!」

外の景色を眺めるノハラが呑気で羨ましい。


前にした約束。
“ 次会ったら自分の話をする……。”
それはまだ、果たせていなかった。

(だから誘われた…?)

なんとなく、そんな気がしていた。

山の展望台は、街が一望できる位置に作られている。
近くにポニー広場もあって、土日は家族連れも多い所だ。でも今日は平日。誰もいない。


「んーっ‼︎ 気持ちいいー‼︎ サイコー‼︎ 」

後ろのベンチに座り、タバコをふかしている彼を背に伸びをした。
ノハラよりも自分が景色を満喫している。やっぱり来て良かった。

振り向くと、ノハラはタバコを吸ったまま動こうとしない。やはり話を聞く為に、ここへ誘ったのだ。


ゆっくりと思い出す厚のこと…。

ノハラの燻らすタバコの煙を眺めながら呟いた。

「……私の元カレは、お酒が好きだったけど…タバコは吸わない人だったな…」

出会い、共に暮らした日々…。急な別れ…そして、あの海鳴り……。

立ち上る煙に、全てが浄化していく気がした…。


「私達…五年付き合ってたの…。二年間…一緒に暮らしてた…」

楽しいだけじゃなかった。喧嘩もしたし、行き違いもあった…。
でも、いつも仲直りして…。

「私は……いつかこの人と結婚するんだろうって思ってた。約束も何もしていなかったけど…」

裏切りを知ったあの日まで、何も疑わず、彼だけを見つめていたーーー

「…なのに、急に言われたの……付き合ってる別の女性に、子供が出来た…って。自分の子だって…」

タバコを咥えようとしたノハラの動きが止まった。
驚いた目で、こっちを見ている…。

「…ふざけんなって感じでしょ。でも、それを確かめる事も出来ないまま、彼、出て行ったの…。部屋にある物全部、好きにしていいからって……それだけ言い残して…」

ショックで立ち上がれなかった。
後を追いかけて行くことも、嫌味の一つも言うことも、何もかもできなかったーー

…全てが急に、終わってしまったから…。
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