スセリの花冠
****

『私にはもう時間がないのよ』

近衛兵宿舎にある隊長室の寝台にゴロリと横になり、ディアランは愛世の言葉を思い出していた。

…時間がないとは…どういう意味だ。

愛世はここを去る気なのか?

どこか遠くへでもいくつもりなのか。

もしもそうだとしても、ディアランには愛世を止める権利などない。

国に帰るもティオリーンに留まるも、彼女の自由なのだ。

それとも……また別の意味か?

命が尽きるとか……?まさか。

セロを問い詰めるか?いや、それはダメだ。

愛世はセロを心から信頼している。

隊長の立場を利用し、セロから聞き出して二人の友情を壊したくはない。

色々と考えていると、ディアランは自分と愛世との間に谷のような深い溝が生まれているのを痛感した。

顔を合わせればギグシャグし、言葉を交わせば険悪になる。

……愛世は……きっと俺が嫌いなんだろうな。

女と抱き合いキスをした俺を、愛世が嫌わない訳がない。

傍にいながらに守れなかった俺に、彼女は幻滅したに違いない。

仮眠をとったら弓矢隊の訓練であったが、ディアランは眠れそうになかった。
< 116 / 168 >

この作品をシェア

pagetop