スセリの花冠
愛世はディアランの表情を見て、慌てて口を閉じた。

やばいわ。頭がおかしいと思われちゃったかも知れない。

そんな愛世をディアランは気の毒に思った。

やはり山賊にさらわれて来たのかもしれない。

山賊は民家を襲うと必ず最後に火をつけて焼き払う。

アイセもまた、その被害者なのかも知れない。

よほど恐ろしいめに遭ったのか、聞いたことのない神の名を口走って取り乱している。

困った様子で俯いている愛世に、ディアランは優しく声をかけた。

「アイセ。心配いらないよ。俺が君を必ず家へ帰してやるから」

それから手のひらで愛世の頭をポンポンと撫でると、白い歯を見せた。

「けどまだ仕事が残ってるんだ。悪いがもう少し俺の傍にいてくれ」

「……はい……」

「いい子だ」

まだ日は高く、アルドの森は晴れ渡っていた。

****

言葉通りディアランは、愛世を自分の愛馬に乗せると引き続き山賊狩りの指揮を取った。

この日の山賊は全員その場での戦いで命を落とし、捕虜となったものはいなかった。

略奪品は財宝係に、人質達は捕虜係に委ねられたが、何故か愛世だけはディアランが自分の馬に乗せたままであった。

それを見た部下達がしきりとニヤニヤし、ディアランに話しかける。

「ディアラン隊長、その女はどうするのですか?」
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