スセリの花冠
「早く、キスして」

すがるような愛世の眼差しに、アルファスが口角を上げた。

「どうした、アイセ」

それから、息のかかる距離で低く囁く。

「やけに苦しそうだが……どうした?神に祝福された鎧が当たり、身体が焦げ付いたか?俺に口付けて毒でも流し込むつもりだったか?……久し振りだな、エリーシャ」

「くっ……!」

アルファスのその言葉を聞くや否や、愛世の顔がみるみる悔しげなエリーシャに変わった。

「残念だったな」

逃すまいと力を込め、アルファスは片手でエリーシャの首を掴んで締め上げた。

けれど次の瞬間、エリーシャは黒い煙となって散るようにアルファスの手から抜け出し、空に駆け上がりながら大蛇と化した。

その姿がすっかり変わり果てた頃、エリーシャがアルファスに問いかけた。

「…なぜ気づいた?」

腹の底に響く、不快な声である。

アルファスは素早く弓をかまえながら不敵な笑みを浮かべた。

「アイセはそんな事を言ったりしない」

アルファスの言葉に、エリーシャは赤い舌をチロチロと見せながら楽しそうに笑った。

「…気の毒に。…お前は相手にされていないのだな」

「黙れ、魔性っ!!」

アルファスは眼にも止まらぬ早さで弓を引いた。
< 120 / 168 >

この作品をシェア

pagetop