スセリの花冠
夕日を背にしたディアランを見た愛世が頬を染めたように見えて、アルファスは息を飲んだ。

「帰ろう、アイセ。マーザが待ってる」

「うん」

ディアランはアルファスに軽く手をあげると愛世の腰に腕を回し、彼女を馬の背に上げた。

「アルフ、またな」

「ああ」

アルファスはそんな二人の姿に、焼けつくような痛みを感じた。

ああ、これは。

徐々にアルファスは、この痛みの正体に気づき始めていた。

****

二週間ほどで衣装作りの手伝いは終り、愛世は近衛兵の宿舎の掃除係を再開した。

リリアが戻るまでと約束してからというもの、ディアランはほぼ毎日宿舎へ顔を見せるようになり、兵達にとっては気の抜けない日々が続いた。

愛世はそんなディアランに文句を言い、彼の身体をグイグイ押して建物の外へ閉め出した。

なんだ、心配するなというのか。

ムッとして腕を組み、閉め出された宿舎を恨めしそうに見ていた時、ディアランの後ろから低く響く声が聞こえた。

「妹と喧嘩でもしたのか?」

声のした方へ眼をやると、馬上でアルファスが笑っている。

ディアランは忌々しそうにアルファスを見て眉を寄せた。

「妹じゃない」

「もう寝たのか?」

「気になるのか」

平静を装ったものの、その問に鼓動が跳ねる。
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