スセリの花冠
武術も戦略も勇気も、それから民を思いやる心もアルファス王には備わっているのだ。

「アイセ。俺だってアルファス王には惹かれてるし、憧れてるぜ。それは罪じゃない。お前は女だ。それを恋と勘違いしたって仕方がないしおかしいことじゃない。ディアラン様を好きだって想いに気付いたなら、もう自分を責めるのはよせ」

気遣うようにこちらを覗き込んだセロに、愛世はポツンと呟いた。

「でももう気付いたって遅いわ。ディアランは恋人がいるもの」

「本当に恋人なのか?」

「恋人じゃなかったら…あんな姿であんな風に抱き合ってキスしないと思うわ。とても情熱的に抱き合っていたもの」

そこまで言うとまた胸が苦しくなった。

「それに、それに……その女の人に私を妹だって……」

セロはディアランをなじりたい気分になり、思わずため息をついた。

だが同じ男として、ディアランの気持ちがよく分かるのも事実だ。

あの日守護神ドロスの神殿で夜空を仰ぎ、切なげに眉を寄せたディアランは間違いなく愛世を愛している顔だった。

愛しているからこそ自分を責め、会えないと言ったんだ。

弟のように可愛がっているアルファス王と愛世への想いに板挟みになり、身を引いたのだ。

だがそれをセロの口から言うわけにはいかない。

それは高潔で自分に厳しいディアランを踏みにじる行為だからだ。

セロは自分の無力さを呪った。

その時である。

「…セロ、満月の呪いって、なに?」

「えっ?!」
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